AtelierMina’s blog

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エミリー・ウングワレー展のススメ

昨日、国立新美術館に、ウィーン美術館所蔵静物画の秘密展を見に行ったわたくしですが、同美術館で開催されていたもうひとつの企画展のおすすめを強く強くいたしたいと思います。

え、静物画展?
そんなのいきましたっけ?


いえね、母と二人でいったんですが、美術館をでたとこでエミリー・ウングワレー展のポスターを見て
「あ!あたしこの展覧会行きたかったの!ここでやってるの!?」
と母。
ポスターをみると、「アボリジニが生んだ天才画家」とある。
絵は同系色の点描で一面埋め尽くされた抽象画。
正直まったく興味がわかない。

「えー・・・いってきたら?あんまりわたし興味がないなあ」
「うーん・・・まあとりあえずお茶しようか」
ということで、昨日の記事につながる。

ミッドタウンでお茶をしたら、思いのほかおいしくて元気がでてしまい
「やっぱりいく!さっきの展覧会!」と母。
わかりました、お供しますよ。


わたくし、抽象画ってよくわからない。
大学では4年生になると抽象クラスと具象クラスに分かれ、それぞれを専門に描いている教授に師事する。
もちろん具象へすすんだ。
抽象画の、なんかすごく意味を含んでるんだろうけど全く伝わってこない、そのくせおしつけがましいというかエラそうな態度が好きになれないのである。

母の話では、エミリーは80歳頃からキャンバスに絵を描き始め、8年間で3000~4000点もの絵を描いた。
オーストラリアが生んだ最も偉大な画家だという。


乗り気がしないまま、会場に入ると、高い壁一面に配置されたたくさんのキャンバスが見えた。
ほとんどくっついて大きな四角を形作るキャンバスは、それでも一枚一枚がかなりの大きさ。
一枚ごとに違う色彩で彩られていたが、全体として調和があった。
とくに何のかたちが描いてあるわけではない。
でも均一でもない。
様々な色の粒々が重なり合って平和に並んでいる。
点のひとつひとつは勢いがあって、おおらかな丸である。
神経質な細かい点ではない。

あたたかさを感じながらすすんでいく。

絵のタイトルはほとんど全てが「アルハルクラ、私の故郷」だ。
エミリーは生涯オーストラリアの砂漠で暮らし、アボリジニの伝統的な生活を送った。
部族の中では女性の儀式のためのボディペイントや砂絵を描く役割にあった。
それをそのまま、キャンバスに描くようになったのが始まりのようだ。

初期の作品は、いわゆるプリミティブアートに見られるような、土のような色、赤や黄土色、黒が使われていたが、次の部屋でそれらは鮮やかな色彩に変わっていた。

青系の絵もあれば、赤系、ピンク系、グリーン系もある。
絵の中の点はさまざまな色をしているが、四角のなかで調和している。
砂漠を空から見たら、ジャングルを空から見たらこんなふうにみえるかもしれない、ちょっと航空写真に似ているなと感じた。
いろんな生き物がひしめいて暮らしているようにも見えた。

エミリーが何を意図して描いたかはわからない。
意図などないように見える。
「描くことは祈ること」とはエミリーの言葉。
彼女が描く場面がビデオ上映されていた。
迷い無く、淡々と筆を走らせていくエミリー。
砂漠の砂の上にキャンバスを置き、上下左右から描いた。
そのため彼女の絵に天地は決まっていない。

「アルハルクラ、わたしの故郷」
タイトルを見て、絵を見て、涙がでそうになった。
どうしてだろう。抽象画を見てこんな気持ちになったのは初めて。
巨大な作品の前に立って、色彩の粒をぼんやりみていると、胸が震える。

彼女の絵には押し付けがましさが無い。
見せるために描いた絵ではない。
ただひたすら祈りの言葉をつぶやくように、筆で点や線を描いた、その集積。

絵は、多かれ少なかれ見る人を意識して描かれるものだと思っていたから、とてもびっくりした。
そういう絵もあるのだと。


見終わって、絵葉書か図録を買おうかと色々見たけど、どれもだめだった。
印刷されると絵の魅力がまったくなくなってしまった。
全然よくない。
あのスケールで見ないとだめです、あれは。
行けるかたはぜひ行って欲しい。
残念ながら今月28日までなのですが。
下に公式サイトを貼りますが、サイトで絵をみてもちっとも素敵に感じないと思う。
でも騙されたとおもってふらりと入ってみたら、絵との出会いがあるかもしれない。
展覧会のハシゴは非常に疲れたけど、行ってよかったです。
静物画のことはほとんど忘れてしまいましたけど(笑)


http://www.emily2008.jp/